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フロイトからユング

西洋人の中で初めて意識の深層に無意識があることを指摘したのはフロイトだ。人間の心の奥に無意識の世界があり、これが人間の考えや行動に大きな影響を与えているという彼の指摘は欧米社会に大きな衝撃を与えた。何故なら当時の欧米社会は明確な意識と論理によって物事は判断されるべきだという合理的な考えに凝り固まっていたからだ。彼は「夢判断」を著わし、夢に出てくるものをシンボルとして解釈し、その意味を追求した。また当時(19世紀から20世紀にかけて)ヨーロッパで謎とされていたヒステリーの解明に挑み、抑圧からくる精神的・肉体的症状との解釈を与えた。彼が開拓した研究分野は現在精神分析学と呼ばれている。

しかしフロイトの業績には賛否両論がある。彼のシンボルに対する解釈には独断的なものがあり、ヒステリーやその他の心的抑圧の現れを全てリビドー(性的エネルギーに)結びつけてしまったことに対しては多くの批判がある。一方、精神の病理に学問的な光を当てたという点においては、誰も彼の業績にケチをつける人はいない。また当時科学は物質のみに偏重する傾向にあったが(今はさらにそうなっているが)、そんな中で人間の心理に主眼を置いた彼の研究は、他の学問分野からも評価を受けている。後に彼の研究は、精神医学や臨床心理学の基礎となっただけでなく、20世以降の文学・絵画・人間観など様々な領域に計り知れない影響を与えている。

一方ユングは若い頃フロイトに傾倒し彼と深く関わったが、やがて意見の違いから訣別し、独自の境地を切り拓いた。ユングはフロイトのいう単なる無意識からさらに研究を進め、神話的概念を持つ集合無意識という新たな領域に踏み込んだ。彼は西洋人でありながら東洋思想にも傾倒し、東洋人と西洋人の心の構造の解明にも挑み、その違いを一定程度明らかにした。現在彼の心理学は分析心理学、あるいは深層心理学と呼ばれている。

ユングの知的興味の対象は幅広く、神話や東洋思想だけでなく、錬金術や占星術、易などにも造詣が深かった。そのため主流の学者からはオカルト的との批判を浴びたりもした。後のニューエイジ運動がユングの考え出した用語や概念を流用しているのも、こうした流れから見れば当然の結果と言えるかも知れない。しかしユング自身は宗教組織のドグマや集団化には強い懸念を表明していて、最後まで臨床医師としての客観的・科学的な態度を崩さなかったと言われている。彼は単に宗教や神話などに集団心理学的な考察を加えたに過ぎない。

さて今や人の心に無意識の世界があることは、ほとんど全ての人が認めている。しかし学問として完全に認められているかというと、実はそうではない。現代の学問といわれるものはすべからく物的証拠を必要としているため、物的証拠など出しようのない、目に見えない世界を扱う精神分析学や深層心理学は、結局正統の学問としては認められない状況にある。したがってユングの研究に対しても熱烈な支持者がいる一方で、学問としては限られた評価しか受けていないのも事実だ。


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