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男と女の心理構造

ユングの心理学にはアニマとアニムスという用語が出てくる。これらはペルソナに対応する概念だ。ペルソナはラテン語で、英語のpersonに相当する。これはもともと仮面という意味だったが、それが『役柄→人』というふうに意味が変化していった。ユングが使っているペルソナは社会的な役柄としての自己であり、それに対応する無意識の中に潜むものが、アニマ(男の場合)またはアニムス(女の場合)と呼ばれるものだ。アニマは男の中に潜む女性的自己、アニムスは女の中に潜む男性的自己と考えれば分かりやすい。

肉体的に男 (すなわち社会的にも男)の場合、女性的要素が抑圧されている。それが男としての要素が極端に強調されるような状況に身が置かれると、意識と無意識の力学のところで説明したように、女性的要素が無意識の中に強く溜まり、一種の人格を得て意識に逆襲してくる。女性の場合はこの逆で、例えば美人で女性的に見える人は、常にそのように振る舞うよう社会的に要求されているので、無意識の中には男性的要素が溜まり、極端な場合、意識上の女性を乗っ取ってしまうこともある。

イメージ全ての人は無意識の中に反対の性を持っている、というのがユング心理学の説明するところだ。そして上のような極端な場合でなくても、反対の性は意識の上に頻繁に現われてくる。一人の人間をとってみれば、男性的要素と女性的要素が常に絡み合い、争いながら意識の座を狙っていると表現できる。では男と女が付き合う場合は一体どんなことになるのだろう。これは男の中の男性的要素と女性的要素、女の中の女性的要素と男性的要素の四者が複雑に絡み合い相克し合うので、予測不能な煩雑な状況を呈することになる。ではもう少し具体的な説明をしてみよう。

ある女性が男性と付き合ったとする。少し経つと彼女は彼が必ずしも男らしくないのに気付く。何故なら男の中では男性的要素と女性的要素が相克し合い、入れ替わり立ち替わり表に現れるからだ。彼女はもう少し男性的であることを彼に要求するが、それは彼にとっては男らしくないと言われているようなものなので腹が立つ。そして逆に彼は彼女がもっと女性的であることを要求する。これには彼女の方もカチンとくる。何故なら彼女は自分の男性的な要素は最も触れてほしくない部分だからだ。このようにして男と女の争いは泥沼へと落ちてゆく。

彼女が彼の中に女性的要素を素早く見抜くことができたのは、先に言った投影のせいだ。彼女は常に自分を彼に投影しているので、女性的要素を彼の中に的確に見て取ることができた。とはいえ元々彼女は彼の男性的な面に魅かれたので、そうした面も彼の中に見て取っていた。実はそれができたのは彼女の中のアニムス(男性的要素)が働いていたからだ。もし彼女の中にアニムスが存在しなければ彼に男性的な魅力を感じることはなかっただろう。すなわち彼にとって不愉快な彼女の中のアニムスが、実は彼女が彼を好きになるのに欠かせない要素だったのだ。

このように分析されると、では男と女の間に和解や平安はは存在しないではないかと思う人も出てくるだろう。確かに和解の道は険しいが無いわけではない。それは言葉で言えば、相手の異性的要素(男の中の女性的な要素、女の中の男性的要素)を互いに受け入れること、となる。しかしこれは『言うは易く行なうは難し』だ。何故なら女性の場合、自分が女であるという基本的な要素と、男の中の女性的要素が正面からぶつかり合うので、それを受け入れる心的余裕がなかなか持てないからだ。果たして互いの同姓(女から見て男の中の女)を受け入れることなどできるのだろうか。

結論を言ってしまえば不可能だ。しかし救いにつながる道がないとは言えない。それは、女から見て男が女性的要素を現してきた時、自分の中のアニムス(男性的な要素)で受け止めることだろう。そして男の方も、女が男性的要素を現してきた時、自分のアニマ(女性的要素)によって受け止めることだろう。ただしこれも言うのは易いが実際には困難が伴う。何故なら女から見た場合、男は男性的要素と女性的要素をコロコロ変えながら表すからで、女が男に男性的な強さや決断力を望んでいる時に、アニマ(女性的要素)を表わされても不快を感じるだけだからだ。また逆に女が、男の優しさやものやわらかさなどアニマ的なものを望んでいる時に、武骨な男らしさを顕にされても不快に感じてしまうだろう。

もし女が男に男性的なものを求めている時にアニムスを、女性的なものを求めている時にアニマを現してくれればこれに越したことはない。それには両者が時間をかけて阿吽(あうん)の呼吸を学んでいくしかない。男と女の和解の道は果てしなく、互いに絶望的になることもあるかも知れないが、しかしアニマやアニムスを不快であるとして嫌ってばかりでは和解の道は見えてこない。我々は互いの中にあるアニマやアニムスを認め、うまく付き合っていくことを学ばなければならないだろう。何故なら相手には不快と思われるアニマやアニムスも、その助けがあって初めて相手に魅力を感じることもできるのだから。


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